ニュースでも取り上げる機会が増えたように、製造業者を狙ったサイバー攻撃が増加しています。製造業者がサイバー攻撃の被害に遭うと、知的財産の流出やサプライチェーンの混乱など様々なリスクを招くのです。
しかし、年々高度化するサイバー攻撃を完全に防ぐことは不可能。現代においては、サイバー攻撃の予防だけではなく、被害を最小限に抑える対策も欠かせません。本記事では、製造業者を狙ったサイバー攻撃が増加している理由や主なサイバー攻撃の種類、効果的な対策5選を解説します。
なぜ製造業者を対象にしたサイバー攻撃が増加しているのか
近年、製造業者を狙ったサイバー攻撃が増加しています。有名な事例でいえば、トヨタ自動車の仕入れ先がサイバー攻撃に遭い、トヨタ自動車の国内全14工場が停止する事件がありました。製造業者へのサイバー攻撃が増加している理由の一つに、IoTデバイスがあげられます。
IoTを導入することは、常にインターネットと接続する状態になります。センサーや産業用制御システム、接続された機器などのIoTデバイスは、貴重なデータと制御機能を提供する一方、サイバー犯罪者にとっては攻撃対象の拡大を意味するのです。サイバー犯罪者は、IoTデバイスの脆弱性を利用して、不正アクセスや機密情報の窃盗、オペレーションの中断を行います。
また、IoTデバイスを導入していなくとも、製造業者はサイバー攻撃への細心の注意が欠かせません。なぜなら、製造業者は貴重な知的財産や機密情報などを保有する傾向にあるためです。サイバー犯罪者は製造業者の貴重な情報を盗むことで、多額の身代金の要求やダークウェブでの高額な売却をします。
製造業者が知っておくべきサイバー攻撃の主な種類
ここからは製造業者が理解しておくべきサイバー攻撃5選をご紹介します。
マルウェア
マルウェアとは、コンピュータシステムを混乱させたり、損害を与えたり、不正にアクセスしたりすることを目的とした悪意のあるソフトウェアです。製造業においては、産業用制御システム(ICS)やサプライチェーン管理ソフトウェア、その他の重要なインフラストラクチャがマルウェアの標的となる可能性があります。
マルウェアの感染経路は、電子メールの添付ファイルや感染したWebサイト、悪意のあるダウンロードなどさまざまです。
フィッシング詐欺
フィッシング詐欺は、個人を騙してログイン情報や金銭的な情報などの機密情報を開示させる手法です。最近では、従業員からログイン情報を盗み取り、企業のシステムやネットワーク、機密情報にアクセスするケースが増加しています。フィッシング詐欺の主な特徴は以下の通りです。
● なりすまし:攻撃者は、電子メールやウェブサイト、または電話を通じて、信頼できる企業や当局などになりすます
● 緊急性:フィッシングメールは、緊急感をあおり、悪意のあるリンクのクリックや感染した添付ファイルの開封、個人情報の提供などを促す
● ソーシャルエンジニアリング:心理的な操作でユーザーをあざむき、信頼を得るために、親しみやすいブランド名や緊急性の高い要求を用いる
DDoS攻撃
DDoS(Distributed Denial of Service:サービス拒否)攻撃は、標的となるシステムやネットワーク、ウェブサイトを大量のトラフィックで圧倒し、正規ユーザーがアクセスできない状態にすることを目的とした攻撃です。
DDoS攻撃の主な特徴は以下の通り。
● ボットネット:危険なデバイスのネットワーク(ボットネット)を利用し、ターゲットに向けた大量のトラフィックを生成
● トラフィックの増幅:ネットワークプロトコルの脆弱性やサーバーの設定ミスなどを利用して、攻撃トラフィックを増幅
● サービスの停止:攻撃対象のリソースを圧倒することで、システムやウェブサイトの正常な機能を停止させ、サービスの停止や事業運営に影響を及ぼす
● レイヤーアプローチ:アプリケーション層やトランスポート層、ネットワークインフラなど、ネットワークスタックのさまざまな層をターゲットにして、その影響を最大化する
ゼロデイ攻撃
ゼロデイ攻撃は、ソフトウェアやハードウェアの脆弱性を狙った攻撃です。脆弱性の修正パッチが提供される日(1日目)の前に攻撃を仕掛けることから、ゼロデイ(0日)攻撃と呼ばれます。ゼロデイ攻撃の主な特徴は以下の通りです。
● 脆弱性の悪用:攻撃者は、組織やベンダーが気づく前にソフトウェアの脆弱性を発見し、攻撃を仕掛ける
● 防御が限定的:未知の脆弱性を狙われるため、従来のセキュリティ対策やウイルス対策では、ゼロデイ攻撃の検知や防止に効果がない可能性がある
● ステルス性:不正アクセスやデータの盗難などの被害に気づかない可能性が高い
ランサムウェア
ランサムウェアは、コンピュータシステムやネットワークに侵入してデータを暗号化し、アクセスできないようにする悪質なソフトウェアの一種です。攻撃者は、複合キーと引き換えに、多額の身代金を要求します。
通常、フィッシングメールや不正なダウンロード、ソフトウェアの脆弱性を突いて攻撃されます。最近は、身代金の要求だけではなく、暗号化したデータの公開を脅迫する「二十脅迫型ランサムウェア」が増加しているのです。
また、身代金を支払ったとしても、データが復号される保証はなければ、機密情報がダークウェブで売買されるリスクもあります。さらに、ダークウェブへ機密情報が流出することをきっかけに、さらなる攻撃リスクへとつながるのです。
このような事情を踏まえると、ランサムウェア対策はもちろん、被害を最小限に抑えるために定期的なダークウェブ監視も欠かせません。
製造業の機密情報がダークウェブに漏えいすることで生じるリスク
それでは、製造業がサイバー攻撃の被害に遭い、機密情報がダークウェブに流出した場合、どのようなリスクが生じるのでしょうか。ここからは、主な4つのリスクを解説します。
知的財産の流出
企業秘密や独自設計、研究開発データなどの製造上の機密情報がダークウェブに流出すると、競合他社に知的財産が知られる、悪意ある行為者に販売されるなどのリスクが生じます。
知的財産の流出がもたらす結果には、以下のようなものがあります。
● 競争優位性の喪失:流出した知的財産は、競合他社が製品の複製や価格の引き下げ、競争力の獲得に使用できる
● 財務上のマイナス影響:知的財産の流出は、市場シェアの低下や売上高の減少、価格戦略の変更などを招き、財務的損失をもたらす
● イノベーションの阻害:独自の設計や研究開発データが流出した場合、技術的な優位性の維持や新製品の開発が困難になり、長期的な成長見通しに影響を与える
サプライチェーンの混乱
ダークウェブは、製造業企業のサプライチェーンを破壊しようとする攻撃者の情報源となります。例えば、サプライチェーンマネジメントに関連する機密情報が流出すると、以下のリスクにつながる可能性があります。
● ベンダーとの関係の悪化:サプライヤーとの契約条件や機密情報が流出することで、信頼が損なわれ、パートナー関係が揺らぐ
● 模倣品の増加:製造情報の流出により、模倣品業者が正規品の模倣品を製造・販売することが可能となり、ブランドの希薄化や収益の損失、エンドユーザーへの損害
● 業務妨害:サプライチェーン情報を利用する攻撃者は、重要な部品や物流、輸送プロセスを標的とすることで、製造オペレーションを混乱させ、遅延、生産停止、製品の品質低下などを引き起こす
顧客の信頼の低下
製造業の機密情報がダークウェブに流出すると、顧客の信頼と信用を損なうことになります。その影響には次のようなものがあります。
● データのプライバシーに関する懸念:顧客は、製造会社が保有する個人情報の安全性やプライバシーを心配し、データを保護する会社の能力に対する信頼を失う
● ビジネス上の関係や契約が危険にさらされる:特に機密性の高い業界の顧客は、データ漏洩や機密保持のリスクが高いと判断した場合、メーカーとの関係を見直したり、契約を打ち切ったりする
製造業における効果的なサイバーセキュリティ対策5選
ここまで見てきたように、製造業はサイバー攻撃の標的になりやすく、被害に遭った場合の損失も大きいです。そのため、適切な対策が欠かせません。ここからは、製造業における効果的なサイバーセキュリティ対策を解説します。
ネットワークセキュリティの強化
製造業のネットワークを不正アクセスや内部からの脅威から守ることは非常に重要です。ファイアウォールや侵入検知システム、安全なリモートアクセス制御などのネットワークセキュリティ対策を導入すれば、外部からの攻撃や不正な内部行動を防止できます。
従業員トレーニング
全従業員に対するサイバーセキュリティトレーニングの実施は不可欠です。安全な閲覧方法やパスワード管理、ソーシャルエンジニアリング攻撃に関する意識を従業員に教育すれば、サイバー攻撃につながる人的ミスのリスクを大幅に低減できます。
従業員には、不審なメールを識別して報告する、悪意のあるリンクをクリックしない、セキュリティポリシーと手順に従うことの重要性を理解するよう教育しましょう。
リスクアセスメントと管理
脆弱性を特定し、対策に優先順位をつけるためには、定期的なリスク評価が不可欠です。製造業者は、システムやネットワークなどにおける潜在的なリスクと脆弱性を特定するために、包括的な評価を実施する必要があります。
調査結果の分析により、リスク管理戦略を策定し、リソースを効果的に配分して、効果的にサイバーセキュリティ対策の実施が可能です。
知的財産と機密データを保護する
製造業者は、知的財産と機密データの保護を優先しなければいけません。これには、許可された個人のみが重要なシステムやデータにアクセスできるようにするためのアクセス制御やID管理システムの導入が含まれます。
データの暗号化は、転送中および保存中の情報を保護するために利用するべきでしょう。また、定期的なデータのバックアップと安全なストレージの仕組みは、万が一の場合に貴重なデータの可用性と回復性を確保するために重要です。
継続的なダークウェブの監視
現代においては、サイバー攻撃による被害を最小限に抑えることが極めて重要です。ダークウェブを定期的に監視すれば、メーカーは自社に関連する潜在的な脅威や流出情報を迅速に特定し、被害拡大の防止やブランドを守る迅速な対策が可能になります。
まとめ
IoTデバイスの普及や知的財産などの保有により、製造業者を狙ったサイバー攻撃数は増加しています。高度化するサイバー攻撃を完全に防ぐことはできないため、サイバー攻撃の予防だけではなく、被害を最小限に抑える対策が必要です。特に知的財産や機密情報がダークウェブに流出した場合、大きな損失を受けてしまいます。被害を最小限に抑えるために定期的なダークウェブの監視も実施しましょう。
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